File.30 5COLORS
「ええっ、あんた、青なんか好きなの!?」
不意にそういう声が聞こえて、私は振り返った。
閑散とした喫茶店でのことだった。少し離れたテーブルに、4人の女性が座っていた。驚いたように、しかしどこかからかうような口調でそう言ったのは、4人の中で一番ハデに見える女だっ
た。その正面に座っているちょっと知的な感じの女性が、『青なんか好き』である人物のようだった。
「なによぉ、青が好きじゃいけないの? そういうあんたは何が好きなのよ」
少々気分を害した様子で、彼女は言った。
「赤に決まってるじゃん。フツー、赤でしょうよ」
迷った様子もなく、派手な女はそう答えた。
わからない。いったい、何の話なのだろうか。赤と青……。ファッションか何かの話だろうか。
「うそ! あんたはゼッタイ、赤なんかじゃないって」
青好きの女性が言った。
「どういう意味よ、それ。あたしなんかじゃ、赤の相手は務まらないってワケ?」
「正直になろうよ。あんたはゼッタイ、赤なんか好きじゃないって」
青好きの彼女は、妙に自信ありげだ。
ますますわからない。色の好みなど、本人以外の人間にわかるものなのか? それに、『赤の相手』というのは何だろうか。どうやら、服装などの好みではないようだが……。
「だいたい、赤なんてどこがいいの? 単純馬鹿のガキじゃん、あんなの」
青好きの女性は容赦がない。徹底して赤を批判する。
「それにくらべて青はいいよ。大人の魅力ってヤツがあるし。赤じゃ、ああはいかないでしょ」
「青なんて、冷静ぶってるだけの役立たずだと思うけど? イザって時には、赤が活躍するもんなのよ」
「アレは、活躍じゃなくてただ暴れてるだけじゃん。結局、その尻拭いは青がやるコトになるんだから」
「なんか、そういうところが偉ぶってる感じでキライなんだけど」
「はぁ……、ま、しょせん赤が好きな人なんてそんなモンよね」
「悪かったわね! どうせあたしは赤が好きとか言いながら実は黄色に惚れてるような女だよ!」
赤好きを名乗っていた女は不意に高い声を上げた。
キレたようだった。
しかし、黄色が好きだというその告白は、周囲の3人を失笑させるに十分だった。
「あはは、黄色だって。マニアすぎ」
「えー、黄色? 最悪じゃん、あんなの」
「あたしも黄色はちょっとなぁ……」
まさに孤立無援だった。
3人からの嘲笑を浴びて、隠れ黄色マニアの彼女は沈黙した。
そんな彼女に、青好きの女が更に追い討ちをかけた。
「あんたってカレー好きだったっけ?」
「うっ……。そんなに好きじゃないけど……」
黄色マニアの彼女が答え、そうして私は彼女達が話題にしているテーマについて理解した。
黄色でカレーとくれば、これはもう一つしかない。説明せねばわからない読者の方は、ここでお引き取り願いたい。ここから先は大人の時間である。
それにしても、彼女たちは一体どういった経緯があってこのような話題で盛り上がることとなったのか。念のために確認しておくと、ここは白昼の喫茶店である。深夜の居酒屋ではない。いくら客の数が少ないとはいえ、彼女たちの声は大きすぎやしまいか。話題の内容から彼女たちの年齢を推測するのは造作もないことだ。
いや、それ以前に話題の内容からして、どうかと思う。何故に今、ゴレンジャーなのか。それとも、いまゴレンジャーが熱いのだろうか。私の知らないところでリバイバル・ブームにでもなっているのか。女性誌では、「ゴレンジャーを徹底分析!」とか特集が組まれていたり。
その後も彼女達の討論は白熱し、ついに一人の女性から「緑が好きだ」という発言が飛び出すに及んで事態は混迷の度合いを深めた。
「ええっ! 緑?」
「ウソ、あんた年下好きなの?」
「ていうか、ショタじゃん」
たちまち、緑好きの彼女には「ショタ」の蔑称が与えられた。
「ショタ」の意味がわからない人は、近くのちょっとオタクな人に訊ねるように。
赤、青、黄、緑がそろったところでまとめてみると、どうやらこういうことになるようだ。
赤:単純、馬鹿、暴走
青:冷静、大人
黄:カレー
緑:ショタ
4人のうち2人がマニア向けというのがちょっと何だが、これ以上のことがわからないので仕方ない。
しかし、これだけを見ると明らかに青が一番お得と言えよう。カレーが好きな人にとっては黄色さえいれば良いのかもしれないし、一部マニアには緑さえいれば良いのかもしれないが。
いや、考えてみれば彼ら一味にはもう一人、構成員がいるのだった。言うまでもなく、最後の一人とは桃色のことなのだが、これこそ最大のマニア向けキャラとも言えよう。
白昼の喫茶店でゴレンジャー論議を繰り広げている彼女たち4人のうちの一人がいつまで経っても自分の好みを語ろうとしなかったのは、そのせいかもしれない。意外な落とし穴である。……って、何が落とし穴で何が意外なのか、よくわからんけども。
ところで私の性格は青に近いと自負しております。青好きの女性の方、どうでしょうか。
いや、実は黄色ですが。
