File.35 落ちて下さい
前回までのあらすじ
ある日、新進気鋭の雑文作家のもとに一通の脅迫状が届いた。
「オチをつけろ」
脅迫状の内容は、それだけだった。
作家には、それが何を意味しているのか即座に理解できた。いつかはそうした脅迫状が寄せられることは予想済みだった。ただ、脅迫状の差出人が彼の母親その人であったことは、さすがに予想の外ではあったが。
彼は苦悩した。なにしろ、オチをつけねばならないのだ。経験のないことだった。
彼は雑文の書き方について考証し、オチをつける為にその明晰な頭脳を働かせた。――が、彼の天才的な頭脳をもってしても、オチがつけられることはなかったのである。脅迫状の内容は、彼にとって非常に厳しいものだった。
追い詰められた彼は、そうして一つの賭けに出た。オチを、一般から広く公募したのである。それは、彼の雑文作家生命の全てを賭けた捨て身の行動だった――。
さてそんなワケで、前回の続きである。
正直なところ、まさか続きを書くことになるとは思わなかった。
「オチは公募します。(マジです)」
と書いたのは確かだが、本当に投稿が来るとは考えもしなかったのである。あれが私なりのオチのつけ方だったのだが。(オチてない、というツッコミは却下)。
では早速、寄せられた投稿を発表しよう。
(その1)
ちなみに、冒頭に出てきた失礼きわまりないmy母であるが、それでも雑文と一緒に開いていたJPEG画像の方について一切言及せずにいてくれることには、ちょっとだけ感謝せねばならないだろう。
(その2)
いや、オチが浮かばないなどというのは詭弁だ。本当は決着のつけ方はもう自分でわかっているのだが、それを認めたくないだけなのだ。しかし今回ばかりはそうも言っていられないだろう。
すすけた学生寮で共に青春を過ごした古い友人のように、実になじみ深いその結論を甘んじて迎え入れることにしよう。――つまり、こういうことだ。
この文章ボツ。
(その3)
さて、この文章を締める画期的なオチを私は思いついたのだが、ここに書くにはちょっとスペースが狭すぎるので、また別の機会に。
(その4)
と、ここまで書いたところで、すぐ後ろに母が立っているのに気がついた。どうやら、ずっと肩越しに読まれていたようだ。
いい機会だ、本人にきいてみよう。
「たとえば、この文章だったらどう落とせばいいと思う?」
母は、心得たとばかりにこう答えた。
「やっぱり駄洒落がいいんじゃない? う〜ら〜の畑でオチが鳴く〜♪ とか」
この母にしてこの子あり。
(その5)
と、ここまで書いたところで以下同文。
「たとえば、この文章だったらどうする?」
「そうねぇ。やっぱり駄洒落じゃないかしら。う〜ら〜の畑で」
「そうじゃないだろ」
歌い出した母を止めたのは、my父だった。
「ここは演繹法で綺麗に締めるべきだ。駄洒落などという下賎な方法は避けるべきであろう」
「なによ、駄洒落がいけないって言うの?」
「いや、そういうわけじゃなくてだな……」
「演繹法がいいって言うなら、具体的に例を挙げてみなさいよ。ほら、早く!」
「い、いや、あの……」
夫婦喧嘩はヤメてくれ。
(その6)
と、ここまで書いたところで振り返ると、すぐ後ろに母が立っていた。だから勝手に読むなって。ところで、いま気付いたのだが私の母親は確か三年前に亡くなったはずではなかったか。
(その7)
やはり、オチを求めて私は旅立たねばなるまい。匍匐前進で。決して葡萄前進ではないので、お間違えなきよう。無論、葡萄全身でもない。
(その8)
苦しい。雑文にオチをつけるということが、これほどに苦しいものだとは思わなかった。そもそも、雑文にオチなどなくても良いではないか。一体いつから、雑文にオチが要求されるようになったのだろうか。ナンセンスではないか。
オチゆえに人は苦しまねばならぬ! オチゆえに人は悲しまねばならぬ! オチゆえに……。こ、こんなに……、こんなに苦しいのなら、悲しいのなら、オチなどいらぬ!
我が雑文に一片の悔いなし!
(その9)
……というところで、私は目が覚めた。どうやら、夢を見ていたようだ。それも、とびきりの悪夢を。さんさんと照り付ける朝日を目に、私は今日という日の始まりを神に感謝した。
この他にも、「後編に続く」としておいて後編を書くのを忘れる、「どっとはらい」と書いてごまかす、「とにかく寒くてたまらなかった」と書いてとりあえず内輪受けを狙う、「オチが考えつかないんだあああ」と喚いて大騒ぎしつつドタバタのハチャメチャに持ち込んで場外リングアウトを狙う、「これは雑文でなく論文だからオチはない」と開き直る、などの投稿があった。
協力いただいた皆様方に、ここで謝辞を述べておく。
――そしてやはり、今回もオチはないのである。トホホ。
あとがき
今回の雑文「落ちて下さい」を読む前に、前回の「落ちろぉッ!」を先に読むように。……って、これは最初に言うべきだったか。まぁいいや。
そもそも私の書いていることはフィクションばかりだが、今回の雑文は特にフィクション性が高いので注意するように。
そして、最後に。
受験生の皆さん、ごめんなさい。
