File.41 駄目人間
世の中には二通りの人間がいる。
こういった大上段に構えた文章はハッタリが効いていて小気味良いのだが、どうも私は好きになれない。好きになれない理由は敢えて説明する必要もあるまいが、こういう文章には大抵の場合、次のような文章がつながる。
「支配する人間と支配される人間である」
とか、
「騙す人間と騙される人間である」
だとか、
「悪人と偽善者である」
などである。
何やらネガティヴな分類ばかりだが、こういったものは大体においてそういう分類をするのが世の通例となっているので特に問題はなかろう。ちなみに私は上述の分類法では全て後者に属することになり、それこそがこうした文章が好きになれない理由でもあるのだが、まぁそれはさておき。
「世の中には二通りの人間がいる。駄目人間とそうでない人間である」
こういう分類法も存在するのである。そして私は間違いなく「駄目人間」の方に分けられる。
「駄目人間」というのは、いったい何が駄目なのか。
全てが駄目なのである。
まず生活態度が駄目である。駄目人間は、決して一般人と同じ時間には起きない。早くても昼過ぎ。何なら、夕方まで寝ていてもかまわない。何が「何なら」なのかよくわからないが、まぁそういうことである。説明に窮すると適当にごまかすのも、駄目人間の特徴である。
しかし、昼過ぎでも夕方でも何なら深夜でも構わないのだが、そういうある程度の時間枠内に起きる習慣があるのなら、まだマシである。駄目人間度が上がってくると、こうした時間枠というものがなくなる。つまり、眠くなったら寝て、起きたくなったら起きる、という生活になるのである。これに、食べたい時に食べる、というオプションを付けると完璧だ。この時点で人間失格と言っても良い。
食事に関しても、当然のように駄目である。駄目人間は、栄養のバランスやカロリー計算といったものを考えない。食べたい物を食べたい時に食べたいだけ食べる。食べたくないものは食べないし、またそれによって引き起こされるであろう問題についても考えない。いや、考えることもあるにはあるが、それがどうした的な結論によってそれらの考えは封殺される。
そして、駄目人間は必要以上に体を動かすことを嫌う。労働などというのは論外として、用もないのに外出したりすることは決してない。用があっても外出しないことすらあるのだが、とにかく一週間でも二週間でも一ヶ月間でも室内に篭もっていたりする。気分転換に外出しようなどとは考えないし、またそうした状況について疑念を抱くこともない。興味の対象外のことは全て「面倒臭い」の一言で片付けられるのである。
駄目人間のわずかばかりの行動力の全ては、その興味のおもむくところに集中される。それはたとえばゲームや読書などといったものになるのだが、そうして集中された行動力ゆえに凄まじいことになる。24時間ぶっつづけでゲームをやったり、給料の全てをもらったその日のうちにゲームと小説を買い込んで浪費してみたり、といった事態がそれだ。計画性や将来の展望というものを全く持たない――または持っていても実行できない――のが駄目人間の特徴である。
これらに加えて、小説や詩を書いたりギターで作曲していたりすると完璧だ。
どうも、駄目人間の説明というより私自身の自己紹介といった趣になってきたが、気にせず続けよう。
駄目人間の特徴としては、もう一つ重要なものが挙げられる。それは、駄目人間は自身が駄目であることを自覚している、という事実である。この自覚がないにも関わらず前記の条件が全て当てはまるという人は、単なる「どうしようもない人」となる。あるいは「クズ」と言い換えても良い。まぁ、多くの駄目人間は同時にクズでもあるのだが。
――そして、これこそが最大の駄目人間の証明となるのだが、それは「駄目であることを自覚していながら、改めようとしない点」である。それぐらいならばまだ救いがあるが、より駄目な人間になってくると、自身が駄目であることを広言し、あろうことか得意気に語ったりしはじめる。更に末期状態となると、自身と同じく駄目な人間同士で徒党を組んだりもするようになる。あまつさえ、その集団にいかにも駄目そうな名称をつけたりする。しかし、そうして徒党を組んだところで元々が駄目な人間であるから、何か建設的なことをするわけでもない。単に集まって酒を飲みながら自分達の駄目ぶりをお互いに披露するという非建設的かつ自虐的な事態に終始する。一言で言うならば、馬鹿の集まりである。
ここで注意しておかねばならないのは、駄目人間は決して馬鹿と同義ではない、という点である。それもまた一面の真理かもしれないが、駄目人間の中に数多くの馬鹿がいるだけだというのが、より真実に近いと思われる。「駄目な人」は、決して「馬鹿な人」ではないのである。いや、そういう場合が多いのも事実だが。
私はといえば、「駄目な人」ではあっても「馬鹿な人」ではない。……と思うのですが、どうでしょう。いや、それともやはり馬鹿なのだろうか。駄目人間の条件には「駄目であることの自覚」が含まれるが、馬鹿の条件に「馬鹿であることの自覚」は含まれないからなぁ。
それにしても、このような文章を書いている私は、つくづく駄目人間だと思う。何が駄目かって、相変わらずオチが思い付かないのだ。もっとも、これを読んでいるような人間の大部分も駄目な人であることだろうから、あまり気に病む必要もないとは思うが。
