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 File.77  1時間に3回


 私の頭脳が優秀かつ明晰であることは自明の理だが、それでもときどき本当にそうなのかと怪しくなるときがある。
 たとえば、頭を洗っているときだ。シャンプーで髪を洗い、リンスをかける。次にこのリンスを湯で洗い流すわけだが、キレイサッパリ洗い流したあとで、はて今のはシャンプーだったかしら、と考えこんでしまうのである。これはかなりのマヌケ具合だ。なにしろ、たった一分前に自分自身の手で自らの頭にふりかけたものがリンスだったかシャンプーだったか忘れているのである。
 しかも、そうやってしばらく苦悩したのちに、念のためもう一回やっておくか、とリンスを再び手に取るにいたっては、マヌケというより白痴に近い。
「キミコさん、夕食はまだかね」
「もう食べたじゃありませんか」
「なにを言っとる。わしゃ食べとらん」
「食べたじゃありませんか、カレイの煮つけ」
「いいや、わしゃ絶対に食べとらん!」
 そういう次元である。せめてもの救いは、やりなおすのがシャンプーからではないという点であろう。――もっとも、これは時間の問題かもしれないが。

 また、私はコーヒーが好きで、インスタントのそれをよく利用する。このとき、コーヒーの粉と砂糖を入れて湯を注いだあと、どういうわけかもう一つ砂糖を入れてしまうのだ。味を見れば砂糖を入れたか否かという判断はできるのに、なぜかそれができない。というか、しない。自信を持って2個めの砂糖を入れてしまうのである。どうしてそこで自信が持てるのかと、そのときの自分に問いたい。これを白痴と言わずして何と言うのか。
 そうして、人生への絶望にも似た自己嫌悪にさいなまれながら、私は砂糖水のようなコーヒーをすするのである。せめてもの救いはミルクを2つ入れなかったことだな、と自分を慰めつつ。
 またこれ以外にも、

 ・ 料理の最中、塩を入れたかどうかわからなくなり、もう一度入れる。
 ・ RPGを終えるとき、すでにセーブしたにも関わらず、もう一度セーブしてしまう。
 ・ 一度歯を磨いたのに、もう一度歯ブラシを握ってしまう。
 ・ すでに牛丼を注文しているにも関わらず、牛皿を注文してしまう。

 だれにでも一度は、このような経験があることだろう。私は日常的に経験している。
 これらは複合して発生することもあり、たとえば先日などは、一度入浴して頭を二度洗い、風呂から出た一時間後にもう一度入浴してしまった。もちろん、二度めの入浴時にも頭は洗っている。しかもその出来事を、私は母親に指摘されるまで気付かなかったのである。
 このときには、さすがにちょっとヤバイのではないかと思った。一時間で3回も頭を洗う人間が、どこにいるだろうか。そのうえ恐ろしいのは、3回めに頭を洗っているとき私はまったく違和感を感じていなかったという事実だ。これは怖い。このぶんだと、私は自分の気付かないところで夕食を3回食べたりしていそうである。加えてそれが3回とも牛丼であるかもしれないという考えは、私の背筋を凍りつかせる。
 そういう次第なので、以前書いたものと同じ内容の雑文が新しく掲載されていたとしても、大目に見てやってほしい。なにしろ一時間に3回頭を洗う人間なのだ、私は。



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