File.86 男爵アイス
以前にも書いたことだが、WEBの世界ではどのようなハンドル・ネームを名乗ろうと自由である。「首吊り」「破壊神」「このやろう」「r氣・”ゥ 5」と、なんでもアリの世界なのである。
個人的には「このやろう」というHNを名乗るにいたった人物を私は賞賛したい。なにしろ彼は「このやろう」なのである。とりあえずOFF会では「このやろう!」と呼ばれるのだ。――いや「!」は余計かもしれないが。あるいは「このやろうさん」と呼ばれるのかもしれない。この野郎なのに「さん」なのである。なにがなんだかわからない。OFF会の幹事にでもなろうものなら、「この野郎様御一行」だ。ちょっとどうかと思う。
のっけから話がずれたが、このたび私は「アイス」というHNを改めて「アイス男爵」と名乗ることにした。男爵である。英語でいえばバロン。冗談ではない。私は本気である。本気で冗談を言っているのでもない。
男爵。
この言葉には不思議な趣きがある。
あなたは男爵の姿を思い浮かべるとき、どういうイメージを作り出すだろうか。まず最初に思い浮かべるのはヒゲであろう。それも、クルンと弧を描いたチョビヒゲがbetterである。加えて、そのヒゲを指先でなでていたりするとなお良い。――なにが良いのかよくわからないが。なにゆえであろうか、「男爵=ヒゲ」なのである。
公爵や子爵には、この「ヒゲ」というフォーマットは与えられない。男爵イコールひげ、ひげイコール男爵なのである。男爵専用装備、それがヒゲなのだ。
「そんなことはない。私が思い浮かべる男爵像は普通の人だ」という読者は、このまますみやかにお引き取り願いたい。私とあなたの間に理解しあえることは何一つないだろう。太陽が東から昇るがごとく、男爵にはヒゲが生えているものである。「ヒゲを生やしていない男爵」は「西から昇る太陽」と同義だ。そんなものは存在しえない。
さて、ヒゲの次に男爵に与えられるイメージは、シルクハットであろう。
男爵は、必ずこれを頭にかぶっている。これもまた謎の行為だ。世界広しといえども、ハトや万国旗を出す以外の目的でシルクハットを使うのは、男爵と大道芸人ぐらいのものだろう。
我々は男爵の頭に乗せられているシルクハットを見て、それが本来そういう用途でもって使われるものだったのだと再認識する。再認識したうえで、失笑する。なにしろ正常な人間の感覚では、シルクハットはハトや万国旗を出すためだけに存在する物だからだ。
他人に笑われるための装備、それがシルクハットである。
また、男爵は必ずステッキを持っている。それも、黒塗りの素敵なヤツである。ごめんなさい。
このステッキを使って、男爵は時に暴漢を撃退したりする。まちがっても、このステッキでゴルフのスイング練習をしたりはしない。男爵は、そうした下賎な行為を好まないのだ。言うまでもないことだが、バットの代わりにしたりもしない。男爵は素敵なステッキの使い方を心得ているのである。しつこいな。
そして、忘れてはならないのがマントだ。巨大なエイ。それはマンタである。
このマントもまた、黒塗りのいかめしい代物でなければならない。函館名物はイカメシだ。無論、マントの内側は真紅であることが望ましい。血で染めたような赤がbestだ。
まとめると、ヒゲ、シルクハット、ステッキ、マンタということになる。まちがえた。理想像は、男爵ディーノ(男塾鎮守直廊三人衆紫電房番人←長いって)を思い浮かべるとよかろう。蛇足だが、トランプやバラといったアイテムもポイントが高い。ジャガイモは却下である。
ところが、ここで問題が生じる。私はシルクハットもステッキもマンタも持っていないのだ。チョビヒゲも生えていないが、これはどうにかなる。問題は、いかにしてこの”男爵3点セット”を手に入れるかということだ。
――え? 買ってこいって? 冗談じゃない、だれが買えるか。こんな恥ずかしい物。
というわけで、残念ながら「アイス男爵」とは名乗れないようだ。
代わりに「アイス伯爵」ということで、どうだろうか。
だれか、目玉の飛び出るほど高いワインと美人のメイドを一人、都合してくれ。あ、あと棺桶も。
