Sponsored Link
 File.78  世紀末国語試験


 学生時代の話である。
 現在でも婦女子にモテモテの私だが、当時の私はその十倍はモテた。どれぐらいモテたかというと、そりゃもう(A)とにかくモテたのである。
 その事実を証明するエピソードとして、13年前のクリスマス・イブの話をしよう。

 中学生のときの話だ。
 クラスの中に、非常に聡明で美しい女子がいた。テストでは常に学年トップ、温和で誰にでも優しい性格で、生徒会の副会長を務める彼女は、まさに絵に描いたような(B)才色兼備の女の子だった。当然、男子からの人気も高く、彼女の周囲には常に人が集まっているような、そんな状態だった。彼女の名を仮に(  )としておこう。
 ある日、私の友人Sが、この( 1 )に惚れてしまった。寝ても覚めても彼女のことが気になって仕方ないのだという。まさに(  )な状態だった。
 どうしたら良いだろうかという相談をもちかけられた私は、とりあえず(C)アタックしてみるしかないのではないか、とアドバイスした。
 かなりいいかげんなアドバイスだったと、我ながら思う。なにしろ( 1 )は今までに2ケタの男からの告白を蹴ったと言われるほどの女子で、とてもではないが友人Sの及ぶような相手ではなかったのである。

 Sは、まず彼女に自分をアピールしようと計画した。悪くない方針ではある。とにかく存在を知ってもらわないことには話にもならないのだ。
 では、どうやってアピールするのか。その答えは、すぐに出た。
 彼女はブラス・バンド――いわゆる[(a)すいそう]楽部の部員で、それもかなり熱心な部員の一人だったのである。Sはそのとき帰宅部員だったが、すぐにブラス・バンド部に入ることを決意した。このとき、なぜか私までもがブラス・バンド部に入れられてしまったのは、Sの(D)奸計にハメられたために他ならない。
 そうして私とSは、それまでの人生で一度もさわったことのないクラリネットやホルンを(  )ことになったのだった。
 が、そもそもブラスに興味があって入部した二人ではないので、上達などするはずもなかった。私は徐々に幽霊部員と化し、Sは音楽室のそうじ係となっていった。
 このとき( 1 )にSのイメージを訊ねたなら、間違いなく[(b)そうじふ]と答えたことだろう。音楽の才能に欠けているSが彼女に好感を与えるのには、それぐらいしか方法がなかったのである。

 そんなある日のことだった。
 私がいつものように部活動を(E)サボって図書室で時間をつぶし、さて帰るかと音楽室の前を通ったとき。すでに部活動の終わったブラス・バンド部のメンバーが二人、残っていた。
 一人がバス・クラリネットを手に持って、もう一人がなにやら教えていた。見ると、それは( 1 )とSの二人だった。
 (F)おお、という感嘆を、私は飲み込んでいた。まさか、二人きりでブラスの練習をするほどの仲になっていたとは。私が図書室で「古典落語傑作集」を読み進めている間に、二人は急速に親密になっていたのである。
 あっしゃ驚ぇたよ御隠居さん、などとつぶやきながら、私は音楽室を後にした。

 その後の二人がどう進展したのかは、ほとんど知らなかった。それでも、たまに部活動に顔を出すと、二人はうまく行っているように見えた。この場合のうまくというのは、[(c)あくまでも]友人として、の話であるのは言うまでもない。
 そして、運命の(  )がやってきた。

 クリスマス・イブのその日は、二学期の終業日でもあった。
 終業式の始まる前、私は( 1 )に声をかけられた。卒業式が終わったら部室に来てほしい、というのである。幽霊というより(G)エーテルに近いような部員の私に何の用があるのかと思ったが、とりあえずOKと答えておいた。
 別に断ってしまってもかまわなかったのだが、全校男子垂涎の女生徒に[(d)ほうかご]の校舎裏に呼び出されるという(H)人生最大級のイベントを拒否するほど、私は多忙な人間ではなかった。というか、死ぬほどヒマな人間だった。なにしろ、ほうかごは「古典落語傑作集」の毎日だったのである。だが、まさか部室であのような事件が起こるとは、思いもよらなかった。

 ほうかご、部室へ行くと( 1 )は一人で待っていた。壊れた楽器とそのパーツ、書き散らされた譜面などで、(  )もないような部室だった。
 イスに座っていた彼女は、すっと立ち上がると、黒く長い髪をかき上げて、「話があるの」と言った。
 重大なことを決意するようなその口調に、私は思わず唾を飲んだ。
「なにかな?」
 ひょっとして退部を言い渡されるのではなかろうか、と思った。なにしろエーテル部員である。いつ除名されても文句は言えなかった。

 彼女は言った。
「  」
「え?」
 驚いた。まさか、そんなことを言われるとは思ってもみなかった。
「  」
「いや、それは……」
 私がとまどっていると、部室のドアが開いた。
 入ってきたのは、Sだった。
「  」
「え、俺が?」
 Sは聞き返した。
「キミ以外いないでしょ?」
 当然のように( 1 )が言い、Sは力なくうなずいた。

 以上、私がモテモテだった話である。