LIGHTNING BEAST
皆さんはピカチュウというキャラクターを御存知だろうか。
こんなヤツである。
画像が読み込めない方には申しわけないが、まぁ黄色いネズミの化け物だと思ってもらえば話が早い。このピカチュウが、いま大ブレイクなのである。いつの話だ、というツッコミは御遠慮ねがいたい。
この黄色いネズミだが、もとは「ポケット・モンスター」というゲームに登場する単なるザコキャラの一匹に過ぎなかった。全身から稲妻を発して敵を攻撃する狂暴なモンスターであり、ポケモン・マスターとやらをめざして世界を冒険する主人公の忠実な下僕。それがピカチュウだったのである。
ところが現在、ピカチュウは我々の日常生活において普通に見かけるほどのメジャーなキャラクターになってしまった。私が見かけたものだけでも、ピカチュウTシャツ、ピカチュウ財布、ピカチュウ時計、ピカチュウ携帯、ピカチュウパソコン、ピカチュウ鉛筆、ピカチュウノート、ピカチュウ布団、ピカチュウデスク、ピカチュウ牛丼と、例をあげればキリがない。
ピカチュウがこれほどのブレイクを果たしたのは、たった一つの原因による。すなわち、「カワイイ」
ただこれだけの武器でもって、ピカチュウは世界を席巻するに至ったのである。
ではピカチュウの何がカワイイのか、それを検証してみよう。
* 検証1.ピカチュウはネズミである
言うまでもなく、ピカチュウは生物学上ネズミに分類される。つまり、ネズミであることがカワイイ原因ではないのだろうか。
では、ここで実験。
知人の若い女性4名にネズミの写真を見せて、「これをカワイイと思いますか?」と訊ねてみた。実験に用いたのは、内臓を露出させた解剖済みのラットである。
「キャアアアッ!」
「うぇっ、気持ちわる……」
「あー、こんなやりかたじゃダメだよ。ほら膵臓にキズがついちゃってるじゃん。まったくヘタクソだねぇ。ここんところはメスの刃先を引っかけないようにして……(以下略)」
「ヘンなモン見せないでよっ!(バキッ)」
以上のような結果になった。痛ぇ。
しかし、この結果だけで「ネズミ≠カワイイ」という公式を立てるのは早計というものである。ピカチュウより遥か以前から「ネズミの化け物」というコンセプトで作られているキャラクターにミッキー・マウスがいる。これもまた「カワイイ」ことを武器にして世界の舞台へとのしあがったキャラクターだ。
では、再度実験。
東京ディズニーランドのミッキー・マウス(の中に入っている石本君)の写真を若い女性4名に見せ、「これをカワイイと思いますか?」と訊ねてみた。
「だれ、コレ。……え、石本? 知らないって、そんなヤツ」
「趣味じゃない」
「眼球に黄疸が出てるね。肝臓を痛めてるんじゃないの? それに前頭部の毛髪が薄くなってる。きっとハゲるね、この人」
「なんか暑苦しそう。近寄らないでって感じィ?」
さんざんな言われようである。石本君は気を落とさないように。
ネズミをモチーフにしたキャラクターの代表として次にネズミ男の絵も用意していたのだが、これ以上の実験は無駄であろうと判断。
結論.ネズミはカワイクない。
* 検証2.ピカチュウは黄色い
見てのとおり、ピカチュウの全身は黄色に染め上げられている。これがカワイイ原因ではないだろうか。
では、実験。
用意したのは信号機の写真である。もちろん、点灯しているのは黄色のランプだ。この写真を4名の若い女性に見せて「これをカワイイと思いますか?」と訊ねてみた。
「アタマおかしいんじゃないの?」
「あたしの友達は黄色の信号につっこんで事故死したの。だから黄色は嫌い」
「知人の精神科医を紹介しよう」
「黄色はGO! 赤は勝負!」
ひどい言われよう。大丈夫か、オレ。
それにしても「勝負」とは一体?
しかし、どうやら黄色の信号はカワイクないらしいことが判明。
気をとりなおして、次の実験にかかろう。信号の次に黄色いものといえば、カレーである。ということで、カレーの写真を4名の若い女性に見せ以下略。
「なんかのイヤガラセなの? コレ」
「カレーは嫌い」
「なに? これをおごってくれるの?」「いえおごりません」
「邪教の信者め! この世で絶対にして唯一の教えは牛丼教である! 改宗か死か! さぁ選べ!」
なんだかよくわからない人が混じっていたようだ。怖い怖い。とにかく、以上の実験から結論を出しても良いだろう。
結論.黄色はカワイクない。
* 検証3.ピカチュウの名前
ピカチュウという名前の響きがカワイイ原因ではなかろうか。とくに「チュウ」の部分。ここに注目したい。
「チュウ」がつくキャラクターといえば、まず挙げられるのが荒井注である。次に伴宙太。
結論.どっちもカワイクない。
* 検証4.ピカチュウは電気を放つ
ピカチュウの最大の特徴として、全身から放つ電撃が有名である。この電撃はおよそ10万ボルトにも達するものであり、ピカチュウ最大にして唯一の武器となっている。この凶悪な電撃こそがピカチュウのカワイイ点ではないだろうか。
電気とは電流のことであり、電子の移動である。そこで私は原子モデルを使い、その中で電子を表す球体を指して「これをカワイイと思いますか?」と訊ねてみた。
「あたし忙しいんだけど。もう帰っていい?」
「なにを言ってるのか、よくわからない……」
「電子? まぁ、ある意味カワイイかもしれないね」
「さぁ牛丼神の洗礼を受けよ。待てっ、逃げるかキサマ!」
怖いよう。
しかし、ようやく一人の女性から「カワイイ」との回答を得た。このさい、「ある意味」という部分は無視である。私自身も「ある意味カッコイイよね」と、ときどき言われる。27歳にもなって無職とか、そういう部分を指して言われるのだが。こういう場合、「ある意味」は無視して考えた方が精神衛生上よろしい。
次に私は東京電力本社の写真を見せ、「これをカワイイと以下略」
「はいはいカワイイよ。じゃあ帰るから。もう電話しないでね」
「でんこちゃんはカワイイよ」
「ちょっと待って。いま知人の精神科に連絡するから」
「牛丼牛丼牛丼牛丼牛丼牛丼牛丼牛丼……」
結論1.電気はカワイイ。
結論2.牛丼教はコワイ。
* 総括
以上の検証から、ピカチュウのカワイサは電気によるものと結論づけて良いだろう。
となれば、次にブレイクするキャラクターもおのずから予想できるというものである。電気を使う化け物といえば、たった一つしかない。その名はエレキング。数年後、我々の生活にはエレキング・グッズが氾濫しているに違いない。私はそう確信する。