スペランカー計画


 最近のゲームのインフレ化は目を見張るものがある。
 インフレといっても、ゲームの値段が高くなったとかいうことではない。むしろゲームの値段は一昔前にくらべて確実に安くなっている。
 では何がインフレなのかというと、体力のことだ。

 たとえば、巷にあふれるRPGなどを見てみると良い。主人公たちの体力(HP)は当然のように3ケタを超え、場合によっては9999などという数字にもなったりする。それに対するモンスターたちのHPもまたインフレ状態だ。なにしろ最近の主人公たちは強い。一撃で5000ダメージとか、そういう攻撃を平気で繰り出す。これに対抗するため、モンスターたちのHPは増加する一方だ。5ケタとか6ケタのHPを持つモンスターも少なくない。たとえばファイナル・ファンタジー7の最終ボスは、30万のHPを有する。スターオーシャン2の最終ボスなど330万である。ちょっと何かまちがっているとしか思えない。しかも主人公たちはそれらのボスを3分で倒してしまうのだから、あきれる。
 昔のRPGは違った。最初のHPは10〜30ほど。究極的に強化しても999が上限だった。それが今は9999があたりまえの世界である。これは一体どういうことだろうか。

 体力のインフレ化は、RPGだけの問題ではない。アクションゲームなどでもその傾向は顕著だ。バイオ・ハザードの主人公など、ミサイルランチャーの直撃を受けても死なない。対戦車用ミサイルを後頭部に直撃されて生きている女が主人公なのだ。オマエこそゾンビではないのか。
 昔のアクション・ゲームは違った。たとえば、スペランカーである。ちょっと例が極端かもしれないが、この主人公はとにかく弱かった。どれぐらい弱いかというと、身長の半分程度の高さから落ちただけで死んでしまうのである。目の前に3段ぐらいの下り階段があったとする。それをジャンプで越えようとすると死ぬのだ。虚弱体質などという言葉では済まされない状態である。いったいどういう体の構造をしているのかと思う。下りのエレベーターに乗って垂直ジャンプしても死ぬのだからすごい。物理法則を完全に無視した死にかただ。そこまでして死ななくても良いのではないか。死ぬのが趣味なのかと思う。
 それ以外でも、コウモリのフンに当たって死ぬ、地面から吹き出している蒸気に当たって死ぬ、ちょっとした穴(推定50cm)に落ちて死ぬ、見えない爆風に触れて死ぬ。とにかく何かすると死ぬのである。ケンシロウに秘孔を突かれて最初から死んでいるのではなかろうか。それともラオウか。いずれにせよ、秘孔を突かれているのはまちがいなさそうだ。「経絡秘孔の一つ新伏免を突いた。死にたくなければジャンプしないことだ」とか言われているのだ、きっと。それを忘れてジャンプしてしまうのだから、どうしようもないバカである。この主人公がミサイルランチャーを受けたら、一発で10000回ぐらい死ぬであろうことは疑う余地がない。

 シューティングのインフレ化もひどい。ギガウイングというゲームがある。このゲーム、どんな素人がやっても一億点ぐらいは軽くとれてしまう。トッププレイヤーともなると、300000000000000点ぐらいのスコアを出す。300兆。アホかと言いたくなる数字である。兆を超える単位を日常生活の場で体験することができるとは思わなかった。――ゲーセンが日常生活の場というのも、ちょっと問題かもしれないが。
 このゲームをやっていると、800点のボーナスを得るために命をかけていたギャラクシアンの時代を思い出し、目頭が熱くなる。ならないけど。

 インフレーションは、ゲームから緊張感を奪い去る。9999もHPがあれば、ザコ敵からの攻撃など痛くも痒くもない。必然的に、戦闘は散漫なものになる。100兆点を超えるスコアがあたりまえのゲームで、100点のアイテムを取るために命を張る人間はいないだろう。
 これではいけない。緊張感のないゲームなど、日常生活だけで十分ではないか。ゲームにまで安寧な時間を求めてはいけない。つねに死と隣り合わせの緊迫感こそが、ゲームには求められるべきである。
 そこで私は、あらゆるゲームをスペランカーの主人公で再現することを提案する。名付けてスペランカー計画!(そのまんま)
 スペランカー計画は、あらゆるゲームの緊張感を200%アップさせる。たとえば――、

バイオ・ハザード → 踏み台から下りて死亡。(落ちて、ではない)
ときめきメモリアル → 転んで死亡。
ストリート・ファイター → ジャンプして死亡。または波動拳(ガード)で死。
トゥーム・レイダース → 下り坂でジャンプして死。
スーパー・ロックマン → ジャンプで死。
○○○○○○○○ → とにかく死。

 じつに楽しそうである。脱毛症か胃潰瘍になりそうだが。
 RPGに適用した場合、パラメータはこうなる。

HP:1
MP:0
STR:1
CON:−256
INT:1
WIS:3
DEX:1
職業:探検家
装備:シャツとズボン
   バックパック(中はカラ)
   対幽霊用ハンドガン(幽霊以外には効果なし)

 幽霊を倒すという点を評価して、WISDOMは3とした。無論、魔法など使えない。無意味なパラメータである。INTELLIGENCEが1というのは当然だろう。
 スクウェアさん、次回のファイナル・ファンタジーは是非この路線でやってください。もちろん、ラスボスのHPは30万のままで。



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