私は温厚な性格なのでめったに怒ったりすることはないのだが、それでも世の中には我慢のならないことがいくつかあるわけで、その中のひとつが「ヘビメタ」という言葉である。
今ここで、はっきりと言っておこう。オレの前で「ヘビメタ」と言うんじゃねぇ! と。
そもそも、彼らはいかなる理由があってHEAVY METALをヘビメタと呼ぶのか。省略したいのならメタルと呼べと私が何度も言っているにもかかわらず。だいたい、HEAVYは「ヘヴィー」であって「ヘビー」ではない。それぐらいのことは中学校で習ったはずだ。まったく、頭の悪い連中は困る。しかもこういう連中はヘヴィー・メタルに対して差別的な偏見を持っている場合がほとんどで、私がメタラーであることを明かすと、まるで部落者か不具者を見るような目をこちらへ向けるのである。
私は声を大にして言いたい。ふざけんじゃねぇ! と。パクるしか能がねぇクセに自らをアーティストとか名乗って偉そうにしてるような、クソくだらねぇ日本のバンドの曲なんぞをありがたがってる馬鹿野郎どもに、メタルの素晴らしさが理解できるハズもねぇ! 愛がどうとか恋人がどうしたとか、毎度毎度同じことばかり歌いやがって、頭にウジでも湧いてんじゃねぇのか? もう少しマシなテーマ――たとえば殺人とか戦争とか狂気とかを歌ってみたらどうなんだ。あぁ?
――ものすごい勢いで話がそれた。今回のテーマはヘヴィー・メタルの布教活動である。いきなり反感を買ってどうしようというのか。とにかく、上記のような理由で私は愚かな仔羊たちに正しい道を示してあげようと思い立ったのである。
# ヘヴィー・メタルを正しく理解する
もしあなたが「メタル=うるさいだけの音楽」という認識を持っているなら、それはすぐに改めるべきである。「メタル=叫んでるだけの音楽」とか「メタル=頭がおかしくなる音楽」などという認識も同様に改めるべきであろう。
たしかにメタルと呼ばれる音楽の多くは音圧が高い。ひずんだギターやスクリーム(叫び声)に耐えられない人もいるだろう。だが、これは慣れの問題である。聴いているうちに慣れるはずだ。というか慣れろ。(命令)
この慣れた状態を指して「頭がおかしくなった」と言う人もいるかもしれないが、それは違う。「開眼」したのだと言ってほしい。つまり、メタルを理解できていないあなたは盲目でこの世を生きているのである。
またこれに次いで多い誤解が「メタル=邪悪な音楽」という認識である。たしかにメタル・バンドの中にはステージ上でコウモリを食いちぎったりニワトリの首を裂いて血をすすったりする連中もいるが、たいていの場合は単なる演出であって、彼らとて好んでそのようなことをしているわけではない。(例外有り)
歌詞の中に「愚かな資本主義者どもを殺戮しろ!」とか「俺たちは悪魔の申し子」だとか「ひざまづけ! お前の穴という穴にコイツをぶち込んでやる!」などという言葉があったとしても、本気でそのようなことを考えている連中はいない。(あくまで例外有り)
もっとも、中にはメンバー全員が逮捕歴有りとか、殺人の前科を持った男がリーダーとか、刑務所の中から新譜をリリースとか、そんなバンドも存在するが、そういうのは例外中の例外である。
ほかに「メタルの人のファッションはカッコ悪い」という意見もある。これについてはハッキリと答えておこう。「そのとおりである」と。だが、ファッションがどうだというのか。小説を読むのに、作家の服装を気にかける人などいないだろう。メタルを聴くのに、ファッションなど二の次である。
# ヘヴィー・メタルを聴く
なにごとも第一印象は大事であるから、初めて聴くアルバムは慎重に選ばなければならない。ここで「ヘビメタなんかどれも同じだろ」とばかりにDERANGEDやSUFFOCATIONなどのアルバムを選ぼうものなら、あなたがメタルを聴くことは二度とないだろう。これらはヘヴィー・メタルの中でも最もヘヴィーな、いわゆるデス・メタルであって、とうてい初心者の耳に耐えられるものではない。(ちなみに私も耐えられない)
それでも、どうせ聴くなら一番ヘヴィーなヤツが良いではないかと思うのなら、私は止めない。CDショップへ行って彼らのアルバムを買ってくるが良かろう。それをCDプレイヤーに入れると、3秒後には大体こういう音が飛び出す。
うヴええええうごぇぼぼぼぼげげげばべばばばばばばべべべべべべぐぁががががごぼぼぼぼぼギャギャギ ャギャギャべべべごごぼぼぼばばばぼごごごごギャギュイィィィィィキュルゥゥゥギギギギギャリギャリギ ャギギギギギごぇええええええごぼぼぼぼぼぼぐべべべべべべぼぼぼぼぼ(以下略)
ちなみに赤いフォントはギターソロだ。それ以外の絶叫はすべてヴォーカルである。こんな音楽を耳にすれば、ヘヴィー・メタルに偏見を持っていない人間でさえ二度とメタルを聴こうとはしないだろう。だから、最初のアルバムは厳選する必要があるのだ。
では何を聴けば良いのかというと、とりあえずMEGADETHの『PEACE SELLS... BUT WHO'S BUYING?』……ではなくて、HELLOWEENをお薦めしておく。彼らの『MASTER OF THE RINGS』を聴いて何も感じるところがなければ、あなたはもう一生ヘヴィー・メタルは聴かなくて良いだろう。一生盲目のまま、ゴミみてぇな邦楽を聴いていればいい。――が、もし何か感じるところがあれば、あなたはメタル道の一歩を踏み出したことになる。おめでとうと言っておこう。
# ヘヴィー・メタルをより楽しむ
晴れてメタル道を歩み出したあなたには、いくつかの注意点を与えておかねばならない。
注意点の一つめは、「決してアンプのヴォリューム・スイッチを左に回してはならない」ということだ。メタラーたるもの、ヴォリューム・スイッチの針が水平線より下にあるようではいけない。無論、右側の水平線より下にある場合はオーケーだ。メタラーがヴォリューム・スイッチを左に回すとき。それは死のまぎわだけである。
二つめの注意点は、「リズムにあわせてヘドバンする」というものである。ヘドバンとはヘッド・バンギングの略で、簡単に言えば頭を振ることだ。横に振るのではない。縦に振るのだ。この際、「軽くリズムを刻む」ぐらいの振りかたではいけない。全身全霊をかたむけて、首の骨も折れよとばかりに振るのだ。世の中には本当にこれで首の骨を折って死んだ強者もいる。彼のような魂の入ったヘドバンができるようになれば、あなたも立派なメタラーである。
さらに三つめの注意として、「エア・ギターをマスターする」という点を挙げたい。
エア・ギターを知らないあなたは、まず左の手のひらを上に向けて胸あたりの高さにかまえるのだ。手の位置は左肩よりも外側に出しておき、指は軽く握る。次に右の手のひらを腹に向けて、体から30センチほど離した位置でかまえる。つまり、架空のギターを持つのである。そうして、ギターのメロディにあわせて右手を上下に動かし、左手の指をそれっぽく動かす。これがエア・ギターである。本物のギターと違って、どれだけ力強く演奏しても近所迷惑にならないのが良いところだ。上級者ともなれば、このエア・ギターにシールド・ケーブルをつないでアンプリファイヤーに通すことも可能である。くわしい方法は説明しないが、要するにイマジネーションとソウルの問題だ。これができるようになれば、あなたは「解脱」したと言って良い。
エア・ギターの見せどころはギター・ソロの部分である。CDがギター・ソロに入ったら、あなたも同じように渾身のプレイをキメるのだ。このとき、床を睨みながらすっぱい表情をするのがコツである。余裕があればエア・ギターと同時にヘドバンも同時進行させると完璧だ。
最後の注意点として、この姿をだれか(特に家族)に見られてはいけないと言っておこう。危ない新興宗教にハマったのかと誤解されるのがオチだ。
# ヘヴィー・メタルの世界を広げる
一発入魂のヘッド・バンギングと芸術的なエア・ギターによるソロをキメることができるようになったあなたは、そろそろ他のバンドのアルバムにも手を伸ばしてみるべきである。ヘヴィー・メタルは音楽の一ジャンルに過ぎないが、そのヘヴィー・メタルの世界でも様々な音の種類があり、それらは明確にカテゴライズされている。以下にいくつかの例を挙げてみよう。
ジャーマン・メタル ジャーマンという名のとおり、一連のドイツ出身のバンドのことである。HELLOWEENに代表されるようなメロディと疾走感を伴った曲が特徴的で、どこかのゲームおたくが間違って作ったのではないかと思うようなベタベタなファンタジーの歌詞が多い。 北欧メタル スウェーデンやデンマーク出身のバンドのうち、ポップスでもデス・メタルでもないものをこう呼ぶ。最も有名なバンドはEUROPEで、キーボードやシンセサイザーを多用した透明感のあるメロディが最大の特徴。もともと目に見えないものに「透明感」というのもおかしな話だが、実際のところデス・メタルやスラッシュ・メタルに透明感を感じる人はいない。 LAメタル GUNS N' ROSESに代表される、アメリカ西海岸出身のバンドの総称。R&Bを基盤にした音楽性、酒、ドラッグ、セックスを扱った歌詞が特徴。日本のロック・バンドはここから影響を受ける(パクる)ことが多い。 プログレ・メタル SHADOW GALLERYを聴け。10000回聴け。つーか聴かなくてもいいからアルバム買ってくれ。たのむよ畜生。(真剣におねがいしてます) スラッシュ・メタル 初期のMETALLICAやSLAYERなどを指す。疾走感というよりも暴走感の漂うギターとドラム。破滅的な歌詞が添えられることが多い。デス・メタルの一歩手前。 デス・メタル CANNIBAL CORPSEやCARCASSなど。反社会的、反キリスト的、かつ猟奇的な歌詞と、崩壊寸前(あるいは崩壊済み)のメロディが特徴。ヴォーカルは「デス声」と呼ばれる雄叫びもしくはうなり声であり、何を言っているのかわからない。どれを聴いても「うヴおえええええべべべばばばごごぇ」としか聞こえないのが特徴だ。(べつに私はデスが嫌いなわけではない)
# 他の音楽を排斥する
こうして立派なメタラーになったあなたは、もはや一人の戦士と言っても過言ではない。戦士となったあなたがなすべきことは、メタル以外の音楽を徹底的に攻撃することである。ビジュアル系バンドには「ヘタクソ」と言い、それ以外のロック・バンドには「パクリ野郎」と言っておけば良い。女子供が歌っているような音楽は論外である。
なに、心配はいらない。なにしろ我々が聴いているヘヴィー・メタルこそはこの世で最も素晴らしい音楽なのだから。なぁ、同志よ。
邦楽ファンから苦情が来ると面倒なので一応ことわっておくが、この文章自体すべてネタである。
とはいえ、だいたい本気だが。