山手線無限軌道案


 先日、山手線に乗った。
 山手線を知らない人はいないと思うが、これは首都圏を走る環状鉄道である。わからない人は、大阪環状線を思い浮かべてもらいたい。あれと同じだ。どちらも知らない人は、もう説明するのも面倒だから帰ってほしい。ブラウザの左上あたりの「戻る」を何回かクリックしてくれ。さようなら、田舎者ども。

 さて、僻地の連中が消えたところで本題に入ろう。
 山手線のことだ。私はこの列車に乗ると、いつも決まってこう思う。
「路線上の全区間を車両でつなげてしまえばいいんじゃないか」と。
 つまり、ベルトコンベアのようにぐるぐる回転する、チェーン状の列車だ。

 馬鹿げた発想だと思うだろうか。いや、私はそう思わない。
 なにしろ、この列車は非常に便利だ。
 まず第一に、駅での待ち時間がない。
 第二に、運転士が一人で済む。(一人もいらないかもしれない)
 第三に、飛び込み自殺ができない。
 ほかにも、あげればキリがないほどメリットがある(と思う)
 なにより、この無限軌道環状線には夢がある。
 夢はたいせつだ。
 だが問題は、夢を実現できるかどうかである。
 実現に向けての障害は、たしかにいくつか考えられる。


1、コストがかかる
 山手線の全軌道を車両で埋めるとなると、これはかなりの費用が必要だ。車両の製造/維持費、それに電気代が跳ね上がるだろう。だが、一方では運転士の人件費が削減できる。車掌は一人も必要ない。(運転士の目の前に座っている車掌が必要だろうか?)
 また、電車が到着する際の構内アナウンスなども省ける。時刻表も不要だ。ついでに、ヘッドライトもいらない。これらの費用がゼロになることで、どうにか埋め合わせ可能なのではなかろうか。


2、いつ停車するのか
 重大な問題である。山手線の駅は均等に並んでいるわけではない。停車時刻をうまく割り振らないと、乗客によっては永久に目的の駅で降りられないという事態にも遭遇しかねない。バスのように、客の降りたいところで「降車ボタン」を押すというわけにもいかない。そんなボタンを配置するコストがもったいないからだ。
 だが、解決案はある。ドアを開きっぱなしにしておけば良いのだ。そして、列車はノンストップで走らせる。乗客は、目的の駅についたら飛び降りるのである。駅のホームにはトランポリンでも配置しておけば良いだろう。これはなんだかたのしそうだ。通勤ラッシュのストレス解消にピッタリである。降りる場所をちょっと間違えるだけで、永久にストレスを忘れてしまうかもしれないが。まぁ、それはそれだ。
 さらにつきつめれば、この山手線にドアは不要である。車両の左右両側は吹き抜けにしてしまい、いつでもどこでも乗降可能というスタイルにすれば良い。車両製造コストの削減にもなる。
 ついでに屋根も省いてしまえばもっとコストが安くなるが、これは雨ざらしになってしまうので不便だ。乗客が傘をさせば解決されることとはいえ、これではもはや列車ではなく「動く歩道」になってしまう。時速80km超の「動く歩道」というのもなかなか凄いが、これを山手線と称するのは問題があるだろう。屋根は必要である。中吊り広告での収益もバカにはできない。そんなものを見ている余裕があるかどうかは別として。


3、踏切が開かない
 これは簡単だ。踏切そのものを撤去してしまえば良い。


4、無賃乗車対策
 なにしろ車両の側面がガラあきなので、駅以外の場所でも乗り降りできてしまう。こうなると、無賃乗車もカンタンである。対策としては、路線内に立ち入れないようにするしかない。全線を鉄条網でバリケードし、敷地内には地雷を埋設しておけば良いだろう。乗車中、誤って地雷原に落ちないよう注意が必要である。
 冗談を言っているように聞こえるかもしれないが、その昔シベリア鉄道では本当にこういう対策をとっていたのでシャレにならない。もっとも、さすがのロシアでも車両の側面を吹き抜けにはしなかったが。たぶん、吹き抜けにすると寒いからそうしなかっただけだと思われる。


5、乗りかた
 走りっぱなしの列車から駅に飛び降りるのは、それほど難しくはない。だれにでもできるだろう。(トランポリンもあるし)。問題は、列車に乗るときだ。物体には慣性の法則が働く。駅から列車に飛び乗ると、乗客は車両の後方に向かって勢いよく転がっていくことになる。これは他の乗客から見て、かなりの迷惑行為だ。迷惑どころか、命にかかわる問題かもしれない。転がってきた乗客に巻き込まれて地雷原に落っこちたりしようものなら一大事である。(というか即死する)
 だが、なにごとにも解決法はある。意志あるところに道あり。この問題の最もエレガントな解決法は、乗客も電車と同じ速度で走りながら飛び乗ることである。だが、時速80kmで走れる人間は滅多にいない。そこで、こうしよう。駅のホームに、時速80kmの「動く歩道」を設置するのだ。これでアッサリ解決である。万歳。



 以上、ざっと考えてみたが、とくに大きな障害はないことが判明した。いくつか見つかった障害も、難なく克服できるようである。むしろ、山手線が一編成ずつチマチマ走っている現状のほうが不思議と言って良いぐらいだ。本来やれることをやっていない。つまりJRは手を抜いているのである。回転寿司で言うなら、もっとたくさんの皿を回せるところをほんの少しの皿しか回していないようなものである。(しかもネタの乾いているようなやつをだ)

 だがもしかすると、JRはこの案を考えついてさえいないのかもしれない。従来どおりの車両を一編成ずつ、のんべんだらりと走らせて、それで事足れりとしているのかもしれない。なんという怠慢であろうか。利用者に対して、より良いサービスを提供しよう/考えようとは思わないのだろうか。私など、5才のころにはこの計画を思いついていたというのにだ。いくら私が天才であるとはいえ、JR職員の誰ひとりとしてこの案を思いつきもしないというのは、いささか呆れ果てる。JRは猛省のうえ、早急に山手線の全周接続を実行してもらいたい。



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