ベースで目立ちたいバンドマンのために


 学校の友達とバンドをやることになって僕はベースになったんですけど、なんかベースってすごく地味ですよね? いてもいなくても変わらないっていうか……。ベースソロとかないし……。ステージの後ろのほうで延々おなじコードひいてると、正直ヴォーカルとかギターのやつを殴りたくなります。僕はベースに向いてないんでしょうか。



 先日、音楽コミュニティでこのような相談を見かけた。相談というより愚痴にしか見えないのだが、言いたいことはよくわかる。つまりベースは目立たないということだ。かつて私もジャンケンに負けてベースをやらされたことがあるので、気持ちは理解できる。とくにヴォーカリストを殴りたくなるというあたりが。

 かわいそうなことに、この相談への回答はロクなものがなかった。たとえば、こんな回答である。
「ベースは名前のとおり音楽の基盤になるものです。ベースがなければバンドは成り立ちません。地味かもしれませんが、ベースにはギターにない魅力があります」
 ベースがなければ云々などというのは、まったく的外れな回答だ。だれだって便所掃除なんかやりたくないが、それがなければ世の中成り立たないのも事実である。いや別にベースが便所掃除だというわけではない。ベースはそれほど重要な仕事ではない。機械にやらせることもできるし、むしろそのほうが安定している。

 こういう回答もあった。
「僕はドラマーですが、ベースはまだマシです! ドラムなんてセットに囲まれて顔も見えないし、スモークたいたらますます見えないし、その場から一歩も動けないし……」
 おまえの愚痴を言う場所ではないぞとツッコみたくなる回答なのであった。(というより、回答になってない)

 ヴォーカルをやっているという人からも回答が寄せられていた。
「ベースかっこいいじゃないですか。縁の下の力持ちっていうか、裏方的な職人さんっていうか、そんなカッコよさがあると思いますよ。たしかにステージで目立つのはヴォーカルとギターですけど、お客さんはちゃんと見てくれてると思います。ガンバッテ!」
 あきらかに、上から目線である。だれか、こいつを殴ってくれ。ていうか、最後のカタカナは何なんだ。喧嘩売ってるとしか思えない。

 ベースがなければ演奏できないとか、ドラムはもっと悲惨だとか、そんな回答をこの相談者は求めていないのである。彼の求めているのは、
1、ベースで目立つ方法(ギターやヴォーカルよりも!)
2、ギタリストやヴォーカリストをうまく殴る方法
3、他のベーシストを見つけてきて自分はギターをやる方法
 こんなところであろう。相談者がほしいのは実益のある回答であって、同情だとか励ましなどではないのだ。2や3はベースと関係ないのでアドバイスはできない。よって、ここでは1を取り上げよう。

 ベースで目立つには、まずテクニックを磨くことだ。ジャコ・パストリアスとかビリー・シーンぐらい弾ければ、いやでも目立つ。ベースソロどころか、ベースだけでのライヴさえ可能だ。しかし、この方法には致命的な欠点が存在する。練習が面倒くさいということだ。
「ベースの練習なんかするより手っ取り早く目立ちたい!」
 もっともである。クズの考えかただが、気持ちはわかる。では、ベースの練習をせずに目立つ方法を考えてみよう。

 まず誰もが思いつくのは、ベースの音量を上げることだ。アンプのボリュームをまわすだけで済むというお手軽さで効果も大きいが、欠点は明白である。メンバーの誰かが即座にボリュームをもどしてしまうであろうということだ。ハードコアなバンドだと、ボリュームをもどさず他のパートのボリュームを上げるという対抗措置もとられる。どちらにせよ、持続的な効果は見込めない。

 変則的な奏法で目立つという手は、どうだろう。寝転がって弾いたり、背中で弾いたり、歯で弾いたりというパフォーマンスだ。こうした行為はギターの特権と思われがちだが、ベースでおこなってはいけないという決まりはない。ピックの代わりにしゃもじを使ったり、電動ドリルを使ったり、道具にも工夫すると良い。問題は、ヘタクソな人がこういうパフォーマンスをやると非常に冷たい目で見られることである。が、練習するのは面倒なので仕方ない。

 ビジュアル面で行くなら、「太る」という手もある。ステージ上に占める面積によって目立とうという発想だ。縦に伸びればもっと目立つのだが、それは難しいので横に伸びる。もちろん健康には良くないが、そんなことを気にしながらバンドやるアホはいない。
 問題はギタリストが太っている場合だ。(しかもメタル系には多い!)
 太れば太るほどギターが速くなるという説もあるので、ベーシストにとっては困ったところである。ガンバッて太ろう。

 ベースと関係ないことをやって目立つという方法もある。あるプログレバンドのベーシストは、ギターとキーボードのバトルが始まるとベースをほうりだして紙芝居を披露してくれる。しかも無駄に絵がうまいため、観客のウケも良い。問題は、後ろのほうの席だと何やってるのか全然わからないことだが。というより、なぜ紙芝居なんだろう。あのバンドのライヴを見るたび、疑問でならない。

 さて、以上のすべてをこなせばベースで目立つのは造作もないだろう。
 私は親切なので、これらのアドバイスを書き込んでやることにした。音楽コミュニティをひらき、くだんの相談スレッドをクリックする。するとそこには「この相談は解決しました」と表示されており、たった一行こう書かれているのだった。
「やっぱりベースやめてギターをやることにします」

 くたばれ。



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