バンドをはじめるのに必要なもの
前回私はベーシストについてあれこれ書いたが、どうも評判が良くない。どうやら、ベースという楽器について偏見を持っていると思われてしまったようなのだ。
こういう反論に意味があるかわからないが、私はベースを愛している。本当だ。三十歳を過ぎた今でも、だれかにアレンビックのベース(約100万円)をゆずってもらったら弾いてみたいなぁと思うぐらいに。それどころか、バンドを組んだっていいと思っているぐらいだ。女性限定で。十歳ぐらいの。
音楽が好きな奴なら、だれでも一度ぐらいはバンドをやってみたいと思ったことがあるだろう。──え? ないって? お友達がいなかったんだな。かわいそうに(笑)
そんなあわれな読者はさておき、バンドをやってみようと思ったとき、そこに様々な障害が立ちふさがっていることを我々は思い知らされる。たとえば、楽器が弾けない、メンバーが集まらない、練習場所がない、好みの女性メンバーがつかまらない、楽器を買う金がないなど。最後のは私だ。
たしかに、バンドをはじめるのは大変だ。金もかかるし時間もかかる。そもそも初心者は何をすればいいのかさえわからない。だが、どんなことでも肝心なのは勇気を持って最初の一歩を踏み出すことである。引きこもりの私が言うのも何だが、人生とは常に前へ歩いてゆくものだ。ごめんなさいお母さん。
こう見えても私はバンドや音楽に詳しいので、今回は初心者のあなたがたのためバンドをはじめるにあたって必要なものを紹介しよう。念のため言っておくが、私の言う「バンド」とは「メタルバンド」のことである。ほかのジャンルになど興味はない。あなたたちも同じはずだ。
◆バンドに必要なもの:その1 リーダー
バンドの中心となる人物。すなわちボスだ。
リーダーに要求される第一の要素は、腕力である。バンド活動ではメンバー同士の意見が衝突することなど日常茶飯事だ。音楽性の主張(もっとポップにしようぜイヤそれは駄目だ)から始まって、スタジオ練習後の食事(松屋にしようぜイヤすき屋にすべきだフザけんな吉野家だろ常識的に考えて)などの選択にいたるまで、あらゆるところで衝突が生じる。これらの問題をすみやかに解決するため、リーダーには腕力が不可欠である。
また、リーダーは冷静沈着かつ冷酷非情でなければならない。バンド内にいざこざを持ち込む奴や、役に立たない奴、あるいは個人的に気に入らない奴を解雇したりリンチしたりするためだ。やりすぎると自分自身がリコールされることもあるが、その場合でも「オレがあいつら全員を解雇したんだ!」などと言い張るぐらいの気概が必要である。
リーダーは、たいてい一番ヒマな人間が務める。言うまでもないが、ヒマでなければバンドなどやるワケがない。つまり、こんな文章を読んでるあなたがやるべきパートだ。
◆バンドに必要なもの:その2 ヴォーカリスト
楽器をひとつも弾けないクセにバンド組みたがる奴がやるパート。目立ちたがり屋で、陽気で、バカであることが望ましい。もちろん、歌がうまくなければならない。
ポップミュージックにおいては99%ルックスだけで選ばれるパートである。が、メタルにおいてルックスは重視されない。理由は言うまでもない。皆一様にブサイクなので選びようがないためだ。
ステージ上で最も目立つパートなので、パフォーマンス能力が要求される。ただ突っ立って歌っているようでは駄目である。かといってアイドルのようにかわいい振り付けなどしても気色悪いだけなので、なんらかの工夫が必要だ。(自分で考えろ)
メタルの場合、無駄に長いギターソロが入ることが多いが、このときいかにも手持ち無沙汰にしているようなヴォーカリストは能無しである。中にはギターソロが始まるとステージ裏で休憩してしまうような奴もいるが、論外だ。デブのヴォーカリストなどは「裏で牛丼食ってんだろ」とか根も葉もないことを言われるので注意しなければならない。本当に牛丼を食う場合はその限りではないが。
◆バンドに必要なもの:その3 ギタリスト
バンドの花形である。1と2を兼任すれば、まさに最強のジョブと言える。
「バンドやろうぜ」などと言い出す奴はだいたい「オレがギターね」と臆面もなく言い放つので、ギタリスト=リーダーとなることが多い。ほかのジャンルにおいても当然だが、メタルにおいては特に重視されるパートだ。はっきり言って、ほかのパートはすべてギターのオマケみたいなものである。
言うまでもなく一番モテるパートだが、メタルの場合あまり関係ない。ざまぁみろ。
◆バンドに必要なもの:その4 ベーシスト
全員でジャンケンして、負けた奴がやる。
人数が足りなければ、そこらへん歩いてる奴をつかまえてきて弾かせるのでも良い。ちょっと教えれば、30分で弾けるようになる。
はっきり言って誰でも弾ける楽器なので、いつも指先がふるえているとか、寝たきりであるとか、失禁しているとか、猫であるとかでなければ問題ない。
簡単な楽器なので演奏をミスると恥ずかしいが、どうせ普通の観客は気付かない。しかしバンドのメンバーには即バレるので最低限の技術は必要だ。技術がなければベースラインが簡単な曲だけをやるという手もあり、悲しいかな大抵のアマチュアバンドがこれを採用している。
◆バンドに必要なもの:その5 ドラマー
体力のある奴がやるパート。
メンバー中いちばん音痴な奴がやる。
あるいは、いちばん頭の悪い奴がやる。
すべてをそなえている奴がいれば完璧である。
プロレスの道場とか相撲部屋に行くと、良い人材が見つかる。
◆バンドに必要なもの:その6 キーボーディスト
なくても良いが、あれば色々と役に立つ。ペットボトル置き場にしたり、弁当置き場にしたり。
子供のころピアノを習っていた奴がいると、「おまえキーボードね」と押し付けられる。バンドなんかやりたくないのに友達に誘われて仕方なく入った、という人も多い。このためキーボーディストは女性である率が高く、バンド内恋愛など問題を起こして解散に至るというのは頻繁に見られるケースである。
もっとも、メタルの世界では滅多に見られない。平和な世界である。
◆バンドに必要なもの:その7 作詞家
バンドやりたいという馬鹿が数人あつまれば、その中には一人や二人ぐらい「詩を書いたことがある」というメンヘラ……じゃなくアタマおかしいやつがいるので、そいつに何か書かせれば良い。おおかた寝言のような歌詞になるが、世の中ほとんどの曲はそんなもんなので問題ない。
メタルであるからには英語で書かなければならないが、日本語しか使えないボンクラには日本語で書かせても良い。いまはクリック一発で英訳できるサイトなど腐るほど存在する。例外なく滅茶苦茶な英文になるが、どうせ観客のだれも歌詞など聞いてはいない。
なお、メタルであるからして、まちがっても「愛」とか「友情」とか「青春」などという単語を使ってはならない。「死」「破壊」「天使と悪魔」「剣と魔法」こんな単語がメタルにはふさわしい。「うわアタマ悪そう」と思ったヤツ。そのとおりだ。
◆バンドに必要なもの:その8 酒
何はなくとも、真っ先にそろえるべきものである。
酒を飲むことで気分が高揚し、演奏がうまくなる(ような錯覚を得られる)
メンバー間のコミュニケーションをはかる道具としても便利だ。
もちろん、気に入らないメンバーを殴るのにも使える。
◆バンドに必要なもの:その9 ドラッグ
酒以上の高揚感を得ることのできるアイテム。
これを用いることで、演奏力は飛躍的に向上する(ような幻覚を得られる)
マリファナ、LSD、コカインなど色々あるが、入手の簡便さから大麻由来のドラッグをおすすめする。使いすぎるとバンド活動どころか人生そのものがどうでもよくなってくるので、適切な服用を心がけよう。
◆バンドに必要なもの:その10 情熱
なにかカッコイイこと言ってまとめようかと思ったけど、どうでもよくなった。
おわる。